私たちのものづくり#9 いちごの王様「あまおう」の産地、福岡県柳川・大川をめぐる旅。
ハンデルスベーゲンの春といえば「あまおうシリーズ」。 旬のあまおうをたっぷりと使った、本物の素材にこだわるハンデルスベーゲンならではのフレーバーとして、毎年必ずお出ししている大人気フレーバーです。
高級ブランド苺として全国的にその名を知られているあまおうですが、その特徴的な大きなサイズや丸っこい見た目、そしてそのバランスの良い甘さと酸味から、「苺の王様」「憧れの苺」というイメージを持っていらっしゃる方も多いのではないかと思います。
このあまおう、「あかい・まるい、おおきい・うまい」の頭文字が名前の由来なのだそうですが、実は正式な品種名は「福岡S6号」といい、この品種名が表す通り、福岡県で生まれ、福岡県だけで生産されている希少な苺なのです。
苺の王様「あまおう」の産地、福岡に。
そしてそんな希少なあまおうを提供してくださっているのが、柳川・大川地区の10件ほどの農家さんと、それを取りまとめている青果市場を営む古賀さん。今回、古賀さんのご案内で、いくつかのあまおう農家さんをめぐり、お話をうかがうことができました。
柳川・大川エリアは、福岡県内でも有数のあまおうの産地。あまおうの生まれた農業試験場のある久留米に程近く、まさにあまおうの故郷とも言えるような場所です。
「このエリアは元々、あまおうの原種である『とよのか』という品種の産地だったんですが、あまおうが開発されてからはほとんどの農家ががそちらに切り替えて今に至ります。今ではうちで扱ういちごのほとんどはあまおうになっていますね。」
古賀さんは基本は青果市場を運営し、様々な青果のセリなどを行っていらっしゃいますが、さすが一大産地らしく、あまおうについては他の青果とは別の専用の集荷場を用意し、農協に属していない農家さんから直接集めたものを卸売をされています。
「今時は高級デパートに並ぶような1粒何百円もするようなものもありますが、やっぱり色んないちごの中でもあまおうが一番味と値段のバランスが取れているんじゃないかなと思っています。ただ、バランスが取れていると言っても高級ないちごですから、関東にいる私の子供も『自分ではなかなか買えない…』と嘆いています。なので、こちらに帰省した際には心ゆくまで味わって食べているようですよ笑」
特別デリケートな苺だから、減農薬の切り札は天敵。
いちごというのは、果物の中でも特別デリケートな果物で、栽培するのが大変な果物。そんなことから、慣行農法においては多くの農薬が使われており、近年いくつかのニュースでその残留農薬の多さが話題になったりもしました。
「そんな苺だからこそ、やれるところまで農薬や化学肥料を減らしたいと思って、日々色々と試しているんです」そう答えてくださったのは大川で40年弱続く武下農園の江口さん。
「やっぱり一番大変なのは害虫の被害。アザミウマとかハダニとかアブラムシですね。昔はその対策としてかなりの量の農薬を散布する必要があったんですが、やっぱりできるだけ安全なものを作りたいという思いから、今は害虫の天敵をいれることで対策をしています。天敵というのは、害虫をやっつけてくれる虫のこと。例えば、ハダニの天敵はミヤコカブリダニと言って、同じダニの仲間ですが、ハダニをやっつけてくれるけれど作物には悪さをしない、というとても有難い虫なんです。」
害虫の駆除に虫を使う、その効果は想定以上だったようです。
「まだまだ完全に無農薬という訳にはいかないのですが、天敵を入れるようになってから確実に害虫の被害が減り、苺自体が綺麗になってきました。農薬を散布すること自体が大変な重労働でもあり、効率的にも良いかなと感じているので、他にも色々と試しているところですね。 今ちょうどアブラムシの天敵を試しているところなんですが、目に見える感じで良くなっています。」
世の中には完全無農薬のいちごもあるにはあるのですが、ものによっては値段がそうでないものの10倍もしてしまうのが現状。そんな中、武下農園さんのようになんとか手の届く値段でありながらも安心して手に取れるものを作ろうと日々努力されている農家さんの存在はとても心強く感じます。
「いちご栽培で大変なこととしてもう一つ挙げられるのはデリケートさですね。ハウス栽培だと当然ハウスの中と外とで温度差があるので、ハウスの中の湿気が天井から水滴として落ちてくるんですが、その水滴が苺に落ちるともうダメなんです。水滴が落ちた部分がふやける感じになってしまうので、そこにはかなり注意して育てています。」
あまおうが楽しめるのはミツバチのおかげ
苺の姿形、と言う点で農家さんにとっては当たり前のことでも、消費者にとってはあまり馴染みがないのが、「実は苺の栽培にはミツバチが欠かせない」ということ。苺が大きく形よく育つにはミツバチの存在は必須なのだそうです。
「苺の栽培にはミツバチが欠かせません。苺には沢山のめしべがあり、それが全てちゃんと受粉してくれないと綺麗な形の苺にはなってくれないのですが、その受粉を手伝ってくれるのがミツバチなんです。もしミツバチがいなかったら、沢山あるめしべがうまく受粉してくれずに、いびつで小さな実ばっかりになってしまうでしょうね。実際、ハチがあまり飛び回れないような寒い日が続くと、受粉しきれなかった花粉がポタポタと地面に落ちてくることもありますよ。」
そう語ってくれたのは、先代から数えると50年以上も苺農家を続けていらっしゃる大川の岡さん。
「ミツバチは生き物だから当然温度管理も大変だし、思ったように動いてくれないこともある。もう苦労だらけですよ笑」
先ほどの江口さんも次のようにおっしゃいます。「あまおうらしい円錐形でかわいい形のものを作るには、適切な受粉をさせてあげる必要があるんですが、ミツバチの働き次第でいちごの形が変わってしまうので、環境にはかなり気を使いますね。ハウスの広さに応じてミツバチが多すぎても少なすぎてもダメなので、毎年試行錯誤していますね。」
これだけポピュラーな果物の栽培が、ある部分でミツバチ頼りであるということに驚かされますが、実は、世の中に出回っている野菜や果物の多くが苺と同じようにミツバチのおかげで受粉ができ、実をつけることができているとのこと。結局どんなに進化したと言っても、わたしたちが口にしているものは全て自然の一部で、自然の力があってこそなんだな…と大変興味深いお話しをお聞きすることができました。
引き継がれているものづくりへの思い
「うちの主人はもともと絵がやりたかったんですよ。東京の集合展に出して新人賞をとったこともあるくらいで。だから本当はある程度稼いで、空いてる時間で絵を描きたかったみたいだけど、苺も大変だからそうはいかなかったですけど笑」
明るく笑いながらお話しをしてくれたのは、約40年前に武下農園を創業された武下さん。70歳を超えられた今も毎日パック詰めの作業をやられているそうです。
「私達の代は全部自分達でやらなければいけなかったから大変でした。今は専門業者に頼むんですが、向こうのハウスも基礎から自分達で作ったんです。穴を掘って、支柱やコンクリートを入れてと全て自分達でやりました。でも、そうやって苦労して育てた苺が綺麗に身をつけてくれた時の晴れ晴れとした気持ちはやっぱり特別で。もちろん炭疽病とか病気になって枯れてしまうこともありますから、喜びと悲しみと、そういうのを両方経験してきました。」
日々の営みとしてだけでなく、じっくりと向き合って良いものを作ろうという思いは、次の代にもしっかりと引き継がれているようです。
「私たちが苺農家を始めた4~50年前は、農協頼りで情報も全然入ってこなかったから主人も私も随分と苦労しましたけど、子供たちは今はスマホ片手に色々と情報収集してるみたいで。youtuberっていうんですか?ああいうのまで見て研究してるみたいです。最近取り組んでいる天敵での害虫駆除も随分効果があったようで頼もしい限りです。絵描きの凝り性みたいなものは引き継いだのかも知れませんね。」
取材を終えて
今手にしている一粒のあまおうは、これだけ多くの方が長い時間をかけ少しづつ形にしてきたものの結晶で、みなさんにとっての宝物みたいなものなんだと実感できた今回の取材。とにかく印象に残ったのは、たずさわっているみなさんの真摯な態度と明るさでした。
「昔はこだわってあれやこれやとやってみたけど、あんまりこだわったら失敗ばっかりで。 だけん、最近はこだわらんことにこだわることにしてます笑 」
長年使っている手押し車を止めて、岡さんは照れくさそうに取れたばかりのあまおうを手渡してくれました。
ハンデルスベーゲンの2023春フレーバーでは、この「あまおう」をたっぷりと使ったフレーバー3種類をお出ししています。どれも素材の良さをそのまま楽しんでいただけるよう、精一杯手間をかけてお作りしていますので、ぜひ味わってみていただければと思います。