クラフトアイスクリーム談義#1- 前編 - 青果ミコト屋「KIKI NATURAL ICECREAM」

クラフトアイスクリーム談義#1- 前編 - 青果ミコト屋「KIKI NATURAL ICECREAM」

ハンデルスベーゲンの中野が、第一線で活躍しているクラフトアイスクリームのつくり手に会いに行く新シリーズ「クラフトアイスクリーム談義」。

「クラフトアイスクリーム」とは、自然の素材を使い、素材本来の良さを引き出せるよう製法にこだわり、少量ずつ丁寧に作られているアイスクリームのこと。私たちハンデルスベーゲンも、自然の素材だけを使い、乳化剤・安定剤・着色料・香料無添加の100%ナチュラルなクラフトアイスクリームを、日々手づくりしています。

ひとくちにクラフトアイスクリームと言っても、個性は全く異なっているのがその面白さ。つくり手の思いやこだわりに触れ学びを得ると同時に、読者の皆さまにも多様なクラフトアイスクリームの世界を紹介したいと思ってこの企画を始めました。

今回ご紹介するのは、なんと我々の横浜市青葉台の工房から徒歩10分ほどの場所に拠点を構える「青果ミコト屋」さん。その名の通り、青果を扱う八百屋さんでありながらクラフトアイスクリームブランド「KIKI NATURAL ICECREAM」を2021年3月にオープンしました。

「青果ミコト屋」代表の鈴木鉄平さんを訪ねて話を伺いました。前編、後編の2回に分けてお届けします。

ストーリーを乗せて届ける八百屋

中野:本日はよろしくお願いします。

鈴木:よろしくお願いします。同業に紹介いただくことってあまりないので、嬉しいですね。

中野:ミコト屋さんの存在はずっと前から存じ上げていたのですが、気づけば同じ青葉区でアイスクリーム屋も始められており。八百屋さん独自のアイスクリームに対する考え方など興味深いことばかりで、僕個人としてもぜひお話を伺いたいなと思っていました。

鈴木:ありがとうございます。

中野:アイスクリーム屋を始められたのはつい最近のことかと思いますが、そもそも「青果ミコト屋」という活動を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木:はじめは、八百屋になろうと思ったのではなく農家になろうとしていたんですよ。

中野:農家ですか?

鈴木:農家に行き着くまでにはいろいろあったのですが。もともとネイティブアメリカンの精神性が好きで、学生の時1年休学してアメリカへ行ったことがあるんです。移動しながら暮らすことへの憧れがあって、向こうでバンを買いその中で生活していました。西南部だけですがルート66を走ったりして。

中野:ルート66!ジャック・ケルアックの「路上」ですね。

鈴木:まさにそうです!好きでしたね。でも、帰ってからは普通に就職し、サラリーマンになりました。憧れていたカウンターカルチャーとは真逆の、資本主義の矛盾の中で生きていたわけです。結局、「なんか違うな」という気持ちが強くなっていって退職しました。ブレブレですよね(笑)。

中野:違うと思って元の価値観に戻ってきたという意味では、ブレていないと思います。そこからどう農家へと繋がっていくのでしょうか?

鈴木:退職後、バックパッカーでネパール・インドへ行ったんですが、そこで出会った山岳民族の、自然のサイクルに寄り添う原始的ともいえる暮らしぶりに感銘を受けました。災害や人災など、何が起きるかわからない世の中。そんな中でも、最低限生きる力を養いたいと彼らを見て思うようになり、「食べ物をつくれるようになりたい」と思ったんです。

中野:これまでの経験が全て繋がって、鈴木さんの中で「農家になりたい」というひとつの結論に達したわけですね。そこからはどう動かれたのですか?

鈴木:自然栽培の野菜や無添加で自然な食品などを販売しているナチュラル・ハーモニーと出合い、そのボスに相談したところ、ちょうど農業研修があるということで。タイミングよく、千葉県にある自然栽培の農家さんのところへ行くことができました。その研修を通して、難しい部分や不条理さにも直面したんです。

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中野:自然栽培の難しさ、ですか。

鈴木:その農家さんは、多くの慣行栽培の農家さんと同じように、農協にも野菜を卸していました。市場に野菜を持っていくと、軽トラいっぱいに詰んだ箱の上の方の野菜を数点見ただけでC品と判断され、買い叩かれてしまうなんてこともざらにありました。

中野:本質的なところは見られず、見た目だけで判断されてしまうんですね。

鈴木:そうなんです。手間暇かけて育てた自然栽培の野菜が、規格外という理由でたくさん弾かれてしまうのを目の当たりにして悲しくなりました。自然栽培で育てた野菜は、大きさもバラバラだし見た目が悪いものも多いのですが、なぜこのような見た目になっているか聞きもしない。それは何でなんだろうと考えた時に、野菜が流通した先にいる消費者がきれいな野菜を求めるからだ、ということに気付いたんです。

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中野:確かに、スーパーに並んでいる野菜はどれも均一で同じような形をしています。それが当たり前と思っている消費者も多いかもしれません。

鈴木:その価値観を変えていかないといけないと思いました。自然って、本来イレギュラーだらけで、全く一緒という方が自然じゃないんです。人だって、10人いれば10人とも全く違う。バラバラなことも個性なんだよって伝えていきたいし、農薬や肥料を使わない代わりに多くの手間と時間をかけて育てている生産者さんたちが報われる世の中にしたい。畑と食卓の距離を縮めるような八百屋さんが必要だと思って、自然栽培の野菜を扱う八百屋になろうと思ったんです。

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中野:そうして、「旅する八百屋」として日本全国津々浦々さまざまな農家さんを尋ねる旅が始まったのですね。

鈴木:はい。高校からの仲間である山代と一緒に立ち上げ、まさにこの古いバンで全国を回って、直接生産者に会いにいきました。野菜自体を仕入れるためだけではなく、生産現場の空気感や育った景色、つくり手さんの考えなどを野菜にのせて食卓に届けたいと思っていたからです。

中野:そうやって語られるストーリーがあることで、目の前の野菜がより尊く、素敵なものに感じられます。自らが見聞きしてきたことなので、言葉に偽りがないし、説得力もある。すごいことだなと思います。

自分たちが信じる良いものを、多くの人に届けたい

中野:ミコト屋さんの存在を知った時に、「ついに八百屋にもこういう奴らが出てきた!」と興奮したのを覚えています。独自の視点で選んだ本質的かつ良いものをかっこよく見せていて、これは野菜のセレクトショップみたいだなあ、と。また、音楽でいうと、大手に属さないインディペンデントレーベルみたいな考え方だなあと感じていましたが、その辺ってどのぐらい意識されていたんでしょうか?

鈴木:そうですね。僕ら以前にも、自然栽培や有機の野菜を扱う八百屋はたくさんありました。でもそういうところってヒッピー的な人たちが多くて、どちらかというと分かる人だけに分かればいいという感じで、狭い世界の中で回っている印象があったんです。すごく良いことをやっているし、考え方にも共感できるのに、なんで広がっていかないんだろう?そう考えた時に、それを提唱している人たちには風変わりな人が多いからかも、と思ったんです。ぶっちゃけ、それまでは僕も風変わりな人の一人だったんです。髪を編み込んで、街を裸足で歩いていたりして。

中野:それはちょっと変わった人というか、近寄り難い印象を受けますね(笑)。

鈴木:そう。そんな奴らが自然栽培の野菜の魅力を語ったところで、胡散臭く感じられてしまうなと思いました。一部の人には刺さったりするんだけれど、そうではなくて、もっと広く一般的なものにしていかないといけない。より多くの人に好感を持ってもらえるようにと、背伸びをしてまずはシティボーイ的な身なりへ変えるところからはじめました(笑)。

中野:多くの人に受け入れてもらうためには、誰が扱っているか、誰が話しているか、も大事ですもんね。売り方についてはどのように考えられていたんですか?

鈴木:食に興味ある人だけじゃなく、より多くの人に届けたいと思っていたので、ファーマーズマーケットやオーガニックマーケットには一切出なかったんです。フットサル会場の横で売ってみたり、映画イベントやクラフトマーケットに出店したりしました。

中野:あえて、野菜を求めている人が来るであろう場所では出さなかったと。

鈴木:フットサルをやっている人たちなんて、全然野菜買ってくれなかったですからね(笑)。でも、おしゃれな人って審美眼を持っていて、食べるものへの感度も高いんです。「良いもの」という根本的な価値では繋がれるはずだと信じていました。

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中野:自分達の思う「良い野菜」を届けたい、広げたいとする意思がすごいですよね。新しい道を切り開いてくれている感じがします。やっていることが単純にかっこいい。

鈴木:ありがとうございます。でも、ぶっちゃけ意地で続けてきた側面もあります。正直、野菜って本当に儲からない。1個売って数十円から数百円の世界だし、ロスも出ます。僕らが商売やマネタイズというのが苦手だというのもありますが、意義がある仕事だと信じていたし、やめたくなかった。

中野:途中で諦めずに続けてきたからこそ、今のミコト屋さんがあるわけですね。

鈴木:儲けたい、規模を大きくしたいとは思ってないけれど、関わってくれている人全員が、ある程度経済的に豊かな暮らしができるくらいには稼ぎたいと考えています。でないと、こういう八百屋が増えていかない。僕たちが良いモデルをつくって、意義ある活動がきちんと続くようになればいいなと思います。

八百屋がアイスクリームをつくる理由

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中野:2021年4月に八百屋としてお店をオープンされましたが、実店舗を構えるきっかけはあったのでしょうか?

鈴木:僕らは今まで、バンで旅をしながら、直接生産者に会いに行くスタイルでコミュニケーションをとってきました。旅をするなかで、その土地土地、たくさんの人にお世話になります。そこで出会う人たちというのは、みなさんしっかりその土地に根付いていて、生業と生活が上手に調和しながら暮らしているんですよね。そういうのを見ているうちにだんだんと「羨ましいな」と思うようになってきて。これまではずっと拠点を持たずに旅することを大事にしてきたけれど、生産者との出会いを重ねるうちに、自分たちの拠点を作りたいと思い始めたんです。

中野:その拠点に選んだ場所が、ここ青葉台だったんですね?

鈴木:ここが僕らの地元なんです。僕ららしい場所でやりたいなと思って、3年ぐらい物件を探していて出会った場所でした。なぜ青葉台なの?とよく聞かれますが、僕らの生まれ育った街だから、という以外の理由はないんです。でも、僕らが深く根付くには、ここ以外にないと思いました。自分の子供たちが「この街で育ってよかった」と思えるような活動を続けていきたいと思っています。

中野:完全に地元でやられているというところが、またかっこいいですね。「Think Globally, Act Locally」なんて言葉もありますが、まさに体現されている。生産者と消費者を繋げるという意味では、都会すぎず田舎すぎない、丁度良い場所なのかもしれません。

鈴木:お陰様で常連さんのほとんどが地元の方で、嬉しいですね。

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中野:そしてここ「micotoya house」で、八百屋とアイスクリーム屋「KIKI NATURAL ICECREAM」を始められたわけです。また、なんでアイスクリームだったんでしょうか?

鈴木:これまでは、個人宅への宅配と飲食店への卸がメインでした。受注型だったためほとんどロスは出なかったのですが、お店となると、常にある程度の品数を並べていないといけません。どうしてもロスが出てしまう商売だなあと。ロスをどうするか考えたときに出てきたアイデアが、アイスクリームでした。

中野:確かに、アイスクリームの懐の深さは抜群だと思います。材料によってさまざまなフレーバーも生まれますし、ちゃんとした状態で冷凍保存すれば賞味期限のしばりもないから、シンプルに野菜や果物を長く楽しむこともできる。それこそロスが出ない商品だと言えますね。

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鈴木:そうなんです。それに、僕たちは自然栽培や在来種、フードロス、ゼロウェイストなどの環境問題について取り組んでいますが、そういったテーマを真正面から伝えると少し高尚な印象になってしまう。

中野:確かに、意識高い人たちに向けたものになってしまいがちですよね。

鈴木:でも、アイスクリームは見た目が可愛くてカジュアルだし、大人も子どももみんな好きですよね。アイスクリームというポップでカジュアルなものにメッセージを乗せれば、受け入れてもらえるのではないかと思いました。

単純にもったいないという話ではなく、間引きの人参を使ったアイスクリームを食べて「人参って間引いたりするんだな」など、アイスクリームを通じて生産現場にもっと興味を持ってもらえるようになるんじゃないかなあ、と。

中野:美味しく笑顔になって、しかも畑や野菜の背景に思いを巡らせることもできる。やっぱりアイスクリームは魔法の食べ物ですね!

「野菜や果物のロスをなくしたい」という思いから誕生した、青果ミコト屋さんのクラフトアイスクリーム。後編では、そんな「KIKI NATURAL ICECREAM」のこだわりや裏話について、さらにお話を伺いました。